* 空と月 *

本好きのたわごと。

『惑いの森』たった6ページの物語

惑いの森 (文春文庫)

惑いの森 (文春文庫)

 

中村文則さんの、短篇集です。

1話目の「タクシードライバー」というお話に、泣きました。

 たった6ページの物語に、こんなにも泣かされるとは。

 カフェに入り、コーヒーを注文し、さあ読むぞ、と気合を入れてページをめくりはじめ、5分と立たないうちに。

不意打ちもいいところです。

 

かつて不安障害?を抱えていた男性のお話。

彼は悲しみに満ちた表情で、暗がりの街の中に、帰っていきました。まるで自分の存在を恥じるかのように。

 胸がギュッと掴まれ痛みました。

この男性の、途方に暮れた顔が浮かぶようで、切なくて切なくて。

 

自分だけでは不安だから、誰かに、確認してもらいたかっただけなのです。誰かが、必要だった。

……(略)

大丈夫だと、間違いないと、言い聞かせてくれる人が。…誰もいなかったから。周りに。

 

男性の哀しみ、苦しみがあまりにもリアルに胸に迫ってきて、自宅で読んでいたら、号泣してました、おそらく。

 最後に少し救われホッとしますが、哀しみや切なさが、とても美しく慈愛に満ちた文章で描かれ、心の深い部分に響くような物語でした。