* 空と月 *

本好きのたわごと。

上に立つ者の孤独 ー『我傍に立つ』より 3

この小説から、色々なことを教わっていますが、特に印象的だったのが、「上に立つ者の孤独」というものです。

私自身は、人の上に立つような器の人間ではないため、そのような立場に置かれたことがなく、今まで考えたこともなかったことでした。

 

周囲から慕われ、期待され求められる人生。

それは徳のある人ゆえのとても素晴らしいことだと単純に思っていたけれど、一方的に期待され求められ続けることは、これほどの孤独を伴うのだと。

崇拝されるばかりで、誰も自分を一人の感情を持った人間として扱ってくれない孤独。

指導者であるはずが、いつのまにか自分の意志で自分の人生を生きられない、まるで「国」の奴隷になってしまったかのような…。

抱いていた理想が、多くの無責任で怠惰な人たちを前に崩れ去り、絶望し、疲れきっていた隆恒は、自分と同じかそれ以上の夢と器を持った主人公、至暁に出逢ったことで、救われたのだと思います。

自分も誰かの夢のために生き、役立つことができる。それが孤独だった隆恒にとってどれほどの癒やしとなり、生きる力となったでしょうか。

そんな、自分に新たな命を与えてくれた至暁の夢を叶えるために、彼が王となる決心をする場面は感動的で泣いてしまいました。

 

至暁が、声高にではなく静かに語る言葉には、人の心を動かす力が秘められていて、隆恒はそれを聴き逃さず、受け止める器のある人物だった。

お互いがお互いを必要としながら、決して依存的なものではなく、命の輝きのようなものを分けあい、与え合っている。

本当に素晴らしいと思いました。

 

一方、隆恒の死後、至暁が隆恒と同じ孤独に陥っていく様子は、読み進めることが辛くなるほどでした。

周囲の多くの人たちが、至暁の志を理解し共鳴するような器ではなく、身近である故に劣等感のみが膨らみ、嫉妬、やっかみという形となり、彼を貶めることで自らを正当化することに終始するという怠惰な道を選ぶ。

今の時代にも、あらゆる場面で遭遇することです。

至暁の孤独はどれほどだっただろうと、想像するのも辛くなります。

人は良くも悪くも人の中で影響し合って生きていて、決してそこから逃れることはできない。

まるで神様から与えられた修行場のような世界で、それでも最後の最後まで、自分を失わず切ないほどひたむきに懸命に生き抜く至暁の姿に涙しました。

 

我傍に立つ(完全版)

我傍に立つ(完全版)